Year: 2022
Medium: acrylic on paper
Dimensions: 31.8 x 23.8 cm (12 1/2 x 9 3/8 in)
Acquired from Taka Ishii Gallery, 2022
半抽象化されたモノクロームのポートレートで国際的によく知られる作家だが、2014年の個展「THE GREAT CIRCUS」(DIC川村美術館, 千葉県)では水彩やアクリル絵具を用いた抽象表現の作品が展示されていたように、本来は線的な具象表現から色面的な幾何学的抽象まで非常に幅広い表現を見せる作家である。本作は「Miami」と題されている主旨は推察しかねるが、暖かな印象を与えるオレンジ色の下地に、深い赤紫色のストロークを重ねている。まるで書字のような、著しい筆跡としての線描は描き手の五木田という人物の手癖・手業を想像させる。五木田の絵画作品の中には文字が大きな役割を果たすものもあるが、それらの筆跡(絵画的に筆触と呼び得るものでもある)と本作の間には類似性を見出せる。例えば、初めてのドローイング作品集『ランジェリーレスリング』(2000年刊行)では、多くのイラストレーション上に文字が重ねられているが、時折文字としての形象を逸脱して自由闊達な線描へと変化していく表現が既に見られる。本作ではより絵画的なストロークとして為されているが、線描について見る上ではイラストレーター時代の文字から発展して来た線の表現にまで遡ると本作品がより豊かに見えてくる。赤紫の濃淡を紙面全体にバランスよく散らしながら、中央部の密度を濃くして暗さを増す一方、よく見ると僅かに白のハイライトを薄く紛れ込ませているのが分かる。それによって、この小さな画面の中に深い空間性を生んでいる。