SHIORI TONO
塔尾栞莉
1994年大分県生まれ。2019年尾道市立大学大学院美術研究科美術専攻油画コース修了。塔尾の絵画の元となるのは、自身で撮影したり、家族アルバムの中から選ばれた写真である。しかし、写真に写されたものをただ模写するというわけではない。塔尾の作品を最も特徴づけているのは、一つあたり3 x 3 cmのマス目ごとに独立して描いていく手法にある。このマス目が縦横に連なることによって画面全体がグリッド状に細分化されて見える。デジタル画像のドット、モザイク状のエフェクト、あるいはJPEGデータの圧縮によるブロックノイズやモスキートノイズを思わせる。3cm幅のマスキングテープを使って、マスを開けたり隠したりしながらひとつずつ描画を進めていく作業過程では、必然的に隣り合うマス目は常に隠されていることになり、結果として図像に非連続性が生まれる。また、空白が時折図像を大きく欠損させているが、これはマスキングテープによって絵具が不意に剥がされることに起因する。写真とは過去を記録する記憶装置としての働きがある。しかし、記憶とは時を経て薄れていくのが必定であり、歪んだり美化されていつしか現実とはズレていく。写真もプリントすればいずれは褪せて朽ちて消えていく運命にある。デジタル画像にしても、理論的エラーや物理的ダメージによって欠損したり修復不能な損壊をする可能性がある。不朽の写真というものは存在しない。塔尾はそうした記憶の歪みやズレを、写真の劣化に重ねて描き出している。