HIROSHI NAGAI
永井博
1947年徳島県生まれ。70年よりグラフィックデザイナーとして活動、幾度かのアメリカ滞在を経てその後の方向性を決定付ける音楽と、椰子の木のイメージとの邂逅を果たす。また、師と仰ぐ湯村輝彦と出会い(80年代のヘタウマ・イラストレーションのブームを牽引したイラストレーター)、湯村の主宰するフラミンゴ・スタジオに出入りしながら絵画スタイルを確立していく。78年よりイラストレーターに転向。1981年に発売された大瀧詠一の名盤「A LONG VACATION」のレコードジャケットを飾ったことで広く認知されることとなる。専門的な美術教育を受けていないこともあるが、絵画の技術としてはアルバイトとして経験した大道具制作会社での背景画制作の実践的な画法が現在も下敷きとなっていることを明かしている。黒い絵具で下絵を描きそこに順次暗い色からハイトーンへ向かって加筆していく。影の黒を最初に描くことで輪郭や陰影が強調されるのである。それが永井特有の極めて明快でくっきりとした表現を生んでいる。細やかに変化する明暗の表現には向かないかもしれないが、南国の強い色彩の中にある漆黒の影が特徴的だと言う点ではアンリ・ルソーにも似ている。グリザイユという基礎的な絵画技法がある。灰色やセピアなどの単色で明暗のみで描いた下絵の上に色彩を加えていくものだ。永井の画法は、効率的な描き方を求めた結果、グリザイユの考え方をより極端な形で実践しているのである。無類のレコード・コレクターとしても知られ、その膨大なコレクションを活用したDJやセレクターとしての評価も高い。