REINA SUGIHARA
杉原玲那
1988年東京都生まれ。2013年東京藝術大学美術学部先端芸術表現科を卒業、2018年ロンドンのRoyal College of ArtにてMFA(Painting)取得。杉原の絵画は鑑賞者の安易な直感が踏み込むことを阻む。一見抽象絵画然とした画面はどこか具象性を感じさせる要素を仄かに残しており、それが何らかの具体的モチーフの存在を予感させるからである。しかし、その予感は予感のまま先に進むことができない。シミュラクラ現象、あるいはパレイドリア現象といった科学的分析もある通り、人は未知の図像に出会うと無意識の内に既知の図像をその中から見出そうとする。点が三つ三角に並べば人の顔に見えるのである。杉原の絵画はその逆と言っても良いだろう。創作の起点となる何らかの対象をまずは立体的に把捉することから始まるという。塑像などを制作し、一度手中で対象を認識する。その感覚を元に幾つものヴァリエーションを平面的に描き出していくのである。その過程において、手と目とによって知覚された対象物の具象性からイメージが次第に離れて絵画が自立していくのである。多くの作家が内面的に経たのちにキャンバスに向かうところ、杉原はキャンバス上にその過程を委ねているのかもしれないが、そのことが鑑賞者を強いスリルに陥れる。杉原の極めて個人的な抽象化のプロセスをまざまざと目にして、その未だ何ものでもない図像から未知の何かを汲み取ることも、既知の何かを見出すこともできずに足止めされてしまうのである。その点において、不可逆性と非前進性の絵画とも言えるだろう。アーティストの大谷透と共にコレクティブimlaborを主宰し、彼らの自主運営スペースである2x2x2(現在は一時休止中)においては国内外のアーティストを招いて多数の企画展を開催、関わったアーティストたちへのウェブ上でのインタビュー公開など多角的な活動を続けている。ARTNews Japanが選ぶ「日本の現代アート界を担う若手アーティスト30人」(2022年)に選出されている。