AKIHITO TAKUMA
詫摩昭人
1966年熊本県生まれ。1993年、滋賀大学大学院教育学研究科美術教育修了。詫摩は一貫して「逃走の線」というシリーズを制作している。「逃走の線」という言葉自体はジル・ドゥルーズの「逃走線=lines of flight」(『千のプラトー』フェリックス・ガタリとの共著)からの引用である。固定化された環境、システム、社会的な規律、そういったものが規定する枠組みからの逃走、あるいは漏出によって、新たなる生の道筋が導かれていく。詫摩の作品では、都市の風景などをモノクロームで描いてから、その画面全体を垂直線状に引き摺って景色を暈してしまう。写真に慣れた私たちの目には、それがまるでボケやブレの写真のように感じられ、写実的な絵画よりもむしろ現実らしさを感じさせる。例えばリヒターがフォト・ペインティングのシリーズでカメラのブレやボケのような写真的な現象を再現して絵画における新たな具象性を試みたように。詫摩の作品において、この特徴的な垂直のブレを起こさせるのは、平筆を複数並置した2メートルにも及ぶ自作の特大ブラシを用いた一回性のストロークによって作り出される。ブラシを一息に歪みなく振り抜くという、極度に身体的な表現である。ドゥルーズの「逃走」には「漏れ出る」という意味も含まれる。詫摩は、この大胆なストロークによって現実を歪め、その歪みの隙間から新たな視覚体験を紡ぎ出そうとしている。和光大学表現学部芸術学科教授を務める。